嵐の会見は「100点」、その理由は

筆者はこれまで10年くらい、企業トップ、政治家、有名人などが会見を催す際の「事前練習」の手伝いをしてきた。しっかり数えたことはないが、その数は300件は超えていると思う。

 どうすれば失言を避けることができるのか。そして、どうすれば語る言葉に1人でも多くの人が理解を示してくれるのか、ということを登壇者の立場に立って考え、最善の道を示して、その練習をさせることが筆者の役割である。

 口はばったいが、そういう「会見のプロ」の目から見ても、今回の嵐の会見は100点満点だ。

 「全員がよく話し合って全員が納得した結果」という最も伝えたいメッセージを世間に強く印象付けただけでなく、ミスリードされるような質問もしっかり処理。会見でもアイドルとして「優等生」なんて呼ばれていたが、まったくソツがなくスマートな会見だった。

 企業経営者など組織トップはもちろん、大勢の人の前で何かしらのメッセージを発しなくてはいけない人にとって、参考になる部分がたくさんあった。

 ということを言うと、「国民的人気アイドルなんだから、どんな会見をしたってファンがチヤホヤするだろ」とか「ジャニーズ事務所に忖度(そんたく)するマスコミが優しかったからだろ」なんて意地の悪いことを言う人もいるだろうが、今回の会見は「ファンの擁護」や「大手事務所のメディアコントロール」だけでは乗り切ることができないリスクがたくさんあった。

 どんなにファンや御用メディアがかばったところで、世間的に納得できる説明がなければ、おかしな憶測が流れる恐れもあった。また、SMAPの独立騒動からの謝罪や、TOKIOの山口達也メンバー引退騒動などの流れもある中で、休止理由がモヤモヤするものだと、やれ結婚か、やれ不仲かとうがった見方もされることもあった。

 だが、彼らはそのようなネガティブな論調は見事にねじ伏せている。大野智さんが休みたいということの具体的な理由はよく分からなかったが、世間はそこにまったく不満がない。むしろ、大野さんの決断を応援するような声も出ており、完全に世論を味方につけているのだ。

 みんなにチヤホヤされていた人気者が、ちょっとした言動で「死ね」「消えろ」とつるし上げられる今の日本で、ファンや事務所の力だけでここまでの支持は得られない。やはり、彼らが多くの人が納得できるコミュニケーションのツボを抑えていたと考えるべきだろう。
5人の役割分担ができていた
 では、嵐の会見はどのあたりの「ツボ」を抑えていたのかというと、まず大きかったのが、5人の役割分担が非常にしっかりとできていたことが挙げられる。

 朝から晩まで会見の様子がテレビで流れているので、なんとなくお気付きの方も多いかもしれないが、実は今回の会見をよく見てみると、質問や発言の種類によって、メンバーの役割が明確に分かれていることに気付くはずだ。それは、大まかに分類すると以下のようになる。

大野さん:決断にいたったプロセス、活動休止に対する自分の思い

櫻井さん、二宮さん:「嫌な質問」に対する処理

松本さん、相葉さん:閉塞的なムードになった時のフォロー

 「そんな役割なんて決まってない! 心のままに素直に気持ちを述べた5人におかしなイチャモンをつけるな!」という嵐ファンの皆さんからの怒声が聞こえてきそうだが、役割分担がダメだとかズルいだとか言いたいわけではない。

 むしろ、複数人が登壇する会見では個々がしっかりと役割分担することで、おかしな失言や誤解を招くリスクは劇的に減る。これは大企業の経営陣などでも十分な打ち合わせと訓練をしないとできない。それをさらっとやってのける嵐の皆さんのチームワークが素晴らしいと申し上げたいのだ。

 中でも今回の会見で非常に光っていた、というか大成功に導いたキーマンが、櫻井翔さんと二宮和也さんである。分かりやすいのが、今批判が殺到している「お疲れ様でしたという声もある一方で、無責任という指摘もあると思う」という記者の質問を、櫻井さんが非常にうまく処理をしたケースだろう。

櫻井・二宮コンビがリスキーな質問に対応
 すでに多くで報じられているので全文は引用しないが、櫻井さんは2年近くの期間をかけてファンに感謝の思いを伝えることを強調し、自分たちの活動の「姿勢」を通して、「無責任かどうかというのを判断していただければと」と返したのだ。

 これを一部マスコミは「記者を論破した」とはやし立てているが、そうではない。「ブリッジング」と呼ばれるスピーチのテクニックで、ネガティブな評価の判断を社会に委ねると前向きに切り返すことで、質問者との「衝突」を避けているのだ。もしここで「僕たちとしては、無責任じゃないと考えています」などと答えると、そこだけ切り取られて、なんとなくファンを置いてけぼりにしているような印象になった恐れもある。それを見事に回避したのは、さすがキャスター経験のある櫻井さんと言えよう。

 ただ、櫻井さんばかりが注目されているが、実は二宮さんの「嫌な質問」のさばきも非常に素晴らしい。「無責任」質問をした記者は、「今回は大野さんが矢面に立つというか、悪者にされてしまう可能性もある」といった質問もしているのだが、これに対して、うまく処理したのが二宮さんだった。

 「1人がやりたくないというときは、どうしてそう思うのかみんなで話し合って決めていく。もしリーダーが悪者に見えるのであれば、それは我々の力不足です」

 これも先ほどと同じで、「悪者じゃないです」とムキになって記者を論破しても、おかしな空気になるだけだ。あくまで、自分たちの中での認識を強調して、伝え方が足りないとして、誰も傷つけない結論へと着地している。見事としか言いようがない。

 このように櫻井・二宮コンビがリスキーな質問に対峙(たいじ)する場面はここだけではない。

 例えば、「解散ではないのか」という質問に対しも即座に櫻井さんが否定し、続く形で、二宮さんが「リーダーの思いを尊重する形で結論に至ったと、みんなで話し合う中でそういう決め方でした」と補足をしている。

 また、「メンバーで反対した人は」というネガ質問にも、二宮さんは「反対というか、できませんか? という相談はしました」「リーダーもギリギリまで考えてくれた印象」と、「反対」というネガワードを変換したところで、櫻井さんが「賛成反対でパキッと分かれるのは難しい」「ちょっと、ごめんなさい、難しいですね」とクロージングしていく。

 両者がまるで「餅つき」のように交互に合いの手を入れるように、ネガティブな方向性へ持っていこうとする記者の質問を、うまく消火している印象なのだ。

松潤や相葉くんはムードメーカー
 二宮さんも2018年の紅白歌合戦で司会を務め、機転の良さなど安定感が評判になったほか、「ニノさん」という冠バラエティで司会を務めている。同じくMC経験の豊富な櫻井さんとともに、この会見ではうまく「守り」を担当したということなのではないだろうか。

 お2人の「嫌な質問」に対する切り返しは、非常にレベルが高く、一般人である我々も活用できる部分があるので、ぜひ参考にしていただきたい。

 ということを言うと、「じゃあ、松潤や相葉くんは何もしてないっての! 相葉くんだって紅白で司会したじゃない!」とか、これまた両者のファンからのお叱りが飛んできそうだが、そこは安心していただきたい。お2人もこの会見でなくてはならない重要な役割を果たしていた。

 それは「ムードメーカー」だ。

 大野さんが「答えづらい質問」に窮した時、あるいは櫻井・二宮コンビの「守り」がきつすぎて、ちょっと閉塞感が漂った時に、すかさずお2人が場を和ませるようなことを言ったり、話題をスイッチしたりするのだ。

 例えば、記者から活動休止の期限を尋ねられ、大野さんが「分からないんです」と答えに困った場面がある。こういう場合、記者がさらに質問を重ねて、「だいたい2年くらいですか?」とかしつこく聞いてくるものだが、そこにすかさず松本さんが、「決まってないでしょ? 決まってるなら教えて」とカットインして、そのような流れを防いでいる。

 また、先ほど紹介した「反対したメンバー」という質問を、櫻井さんが「ちょっと難しいですね」とピシャリと打ち切った場面も同様だ。こういう言い方をされると、マスコミというのは、「ああ、このあたりはセンシティブな話題なんだな」と認識して、根ほり葉ほりと聞いていくるものだ。

 事実、この後に櫻井さんの回答を無視するような形で、「ケンカや言い合いになったりということは」という「嫌な質問」が重ねられたが、それを松本さんが「ないです。そういうの書きたそうですね」と冗談で切り返して、相葉さんも「ウソでもしておけばよかったな~」などとカブせていく。

 ケンカや口論くらいはあったのではという憶測を、2人が和やかなムードで見事に鎮火してしまったのだ。


謝罪会見の「炎上」は避けることができる
 松本さんや相葉さんは、根ほり葉ほり質問攻めに合う大野さんや、ネガ質問を切り返す櫻井さんや二宮さんが孤立しないよう、フォローする重要な役割を担っていたのだ。

 もちろん、謝罪会見などでは、冗談で場を和ませるようなことはできないが、実は彼らのようなフォロー役こそが「炎上」を防ぐキーマンになるのだ。

 例えば、不祥事を起こした企業の謝罪会見では、責任問題を追及される社長や、事実関係をひたすら説明する役員だけしかいなくて、顧客や取引先、あるいは社会に対する怒りや不安に寄り添うことを言える人がいないことが多い。

 そのため「誠意が感じられない」とか「本当に悪いと思っているのか」などと叩かれてしまうのだ。質問に答えたり、事実を説明したりする人たちだけではなく、松本さんや相葉さんのように「感情」のケアができる人がそろっていてはじめて、リスキーな会見は「炎上」を避けることができるのだ。

 嵐の会見が「100点」という理由が分かっていただけたと思う。

 彼らはアイドルという特殊な仕事ではあるが、自分たちの考えを丁寧に伝えていくスタンス、「嫌な質問」をうまく切り返すテクニックなど、我々一般人も学ぶべきところが多くある。

 記者会見やプレゼンなど、人前で質疑応答をする立場の方たちはぜひとも彼らを参考にしていただきたい。

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